大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)1138号 判決

借地法第一〇条の買取請求の目的となつた建物の時価は、建物を取りこわした場合の動産としての価格ではなく、建物をこわさず、建物が現存する状態でその所有権を取得するために要する売買の価格であると解するのが相当である。そして、その価格算定に当つては、もとより法律上の権利としての借地権の価格は加算すべきではないが、その建物の所有者が享受する事実上の利益、別言すればその建物の利用価値を念頭におくことが必要であつて、そのためには、交通の便宜、環境の良否等の地理的環境、営業用建物か居住用建物か等の使用目的、使用状況、建坪、敷地面積等の建物および敷地の状況その他当該建物をとりまく一切の場所的環境を参酌しなければならないものというべきである。

本件についてこれをみると、当事者間に争いのない本件建物の所在場所、敷地面積が被控訴人主張のとおりである事実、いずれも成立に争のない甲第一、四号証、乙第一号証(ただし、後記採用しない部分を除く。)、原審証人富田春一、同木部春吉、同松山茂三、同丸橋達司(ただし、後記採用しない部分を除く。)の各証言、原審における控訴人および被控訴人横打俊太各本人尋問の結果、鑑定人丸橋達司、同蔵元二治の各鑑定の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)に弁論の全趣旨を総合すると、本件建物は床面積二三八・〇一平方米の木造亜鉛葺平家建倉庫および床面積一・六五平方米の木造平家建便所であつて、建築後二〇数年を経過しており、その物理的な建物自体の価格は昭和四〇年五月一日現在で合計金四〇万五〇〇〇円ないし金四五万九〇〇〇円であり、その敷地は、一六一一・八〇平方米あり、所在場所は京浜急行生麦駅南東へ約二五〇米、市営バス明神前停留所前にあり、第一京浜国道から通称産業道路、大黒町方面へ通じる巾員二五米の舖装道路に接しており、附近一帯は車輛の往来がはげしく店舖、営業所、小工場が散在していること、現在、本件土地建物は商品回収業に使用されていること、本件建物はもと訴外高橋建設工業株式会社が所有していたが、昭和二八年二月一〇日訴外渡辺ヨシに譲渡され、さらにこれが抵当権実行による競売に付され昭和三二年六月一七日訴外榎田熊一が金三五万円で競落し、その後昭和三三年二月二八日訴外榎田から控訴人に金一三〇万円で売却され、買受人である控訴人は土地所有者に別途承諾料ないしは権利金名下の支払をして借地権譲渡の承諾をうける考えであつたが、控訴人は右買受けに際し、訴外松山茂三との間で地主の承諾を得て本件建物の所有権と借地権を取得させることを約束し、あらかじめ同訴外人からその対価として金二〇〇万円を受領しているものであることを認めることができる。右認定事実によつて考えるときは、本件建物の買取請求の価格として考えられるいわゆる建物の現存するままの価格として認められるものは、一三〇万円または一三〇万円ないし二〇〇万円であるが、後者は本件建物を一三〇万円で買つた者が転売するに際し、その負担において、敷地借地権の名義書換を了した場合における本件建物と敷地賃借権の価格の合算額を二〇〇万円とすることを前提とするものであるから、これを採つてもつて本件建物の買取請求の価格として認めるのは相当でないというべく、本件の場合はむしろ前者の価格それ自体こそいわゆる物理的価格に場所的環境等諸般の事情を参酌して算定した本件建物の昭和四〇年五月一日現在の買取請求価格として相当なものであると認めることができる。もつとも、前掲鑑定人丸橋達司の鑑定の結果によれば、本件買取請求の価格は金三五五万一〇〇〇円を相当とするというのであるが、前掲乙第一号証前掲証人丸橋達司の証言を合わせてみると、右金額は、建物自体の物理的価格金四〇万五〇〇〇円にいわゆる場所的利益として借地権価格の二五%金三一四万六〇〇〇円を加算することによつて得られたものであることが明らかであるが、場所的利益算出に際して借地権の価格を加算すべきでないことは前叙のとおりであり、また、その割合を二五%とする根拠が必ずしも明らかでないから右の鑑定の結果はただちに採用できないというべきである。なお、右各証拠によれば、右買取請求価格は本件建物から得られるべき収益を還元することによつて算出される価値(収益還元性)から論証されうるとし、また、前掲鑑定人蔵元二治の鑑定の結果によれば、右収益還元法によつて算出した金二五五万五〇〇〇円を本件買取請求の価格であるとするのであるが、その鑑定理由をみるとかくして算出された価値はひつきよう借地権のあることを前提にしているかないしはその価値の相当部分は借地権の価値に包含されるべきものと思われるから、買取請求価格に借地権の価格を算入しているものといわざるをえず、右の評価にも従いえない。そして、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

(小川 萩原 川口)

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